研究レポート
2022.10.05
フィコシアニンで紫外線による皮膚損傷は防げるのか?〜ヒト表皮角化細胞株を用いた研究〜
紫外線照射等の外的ストレスで皮膚の組織に過剰発生する活性酸素は、細胞膜の脂質を酸化させ、細胞にダメージを与えます。それを抑制するための抗酸化物質として、近年、フィコシアニンの注目が高まっています。そこで今回は、皮膚研究のモデル細胞として有用なヒト表皮角化細胞株を用いて、フィコシアニンの紫外線照射に対する光防御効果について調査した研究をご紹介します。
本研究のポイント
フィコシアニンを付与したヒト表皮角化細胞株に、紫外線を照射することで以下のことが示唆されました。
- 細胞損傷を防ぐことできる
- マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現を抑制し、加齢によるシワの形成を抑制することができる
- 活性酸素の生成量が減少させ、細胞膜の脂質の酸化を抑制することができる
実験方法
ヒト表皮角化細胞株を用いて、スピルリナ由来のフィコシアニンの紫外線照射に対する光防御効果について実験を行いました。実験では、紫外線照射による細胞生存率、皮膚老化をもたらすMMPの生成量、皮脂を酸化させる活性酸素量を測定しました。
実験結果と考察
1|フィコシアニンによる細胞損傷の防止効果
フィコシアニンを各濃度(5、10、20、40、80μg/mL)付与したヒト表皮角化細胞株に対して、紫外線を照射し、その際の細胞生存率を測定しました。フィコシアニンを付与していない細胞に紫外線を照射すると、細胞生存率は50.8%まで低下しました。一方で、フィコシアニンを80 μg/mL 付与した場合は、細胞生存率を81.3%まで増加しました。したがって、フィコシアニンは紫外線照射による細胞損傷を防ぐことが示唆されました。
2|フィコシアニンによるシワ形成抑制効果
皮膚に紫外線を照射すると、皮膚の老化をもたらすMMP-1やMMP-9などのMMPの発現が増加することが知られています。フィコシアニンを各濃度(0、20、40、80μg/mL)付与したヒト表皮角化細胞株に対して、紫外線を照射し、その際のMMP-1、MMP-9の分泌量を測定しました。その結果、フィコシアニンを付与しない場合は、MMP-1、MMP-9の分泌量が増加することが分かりました。一方で、フィコシアニンを80 μg/mL 付与した場合は、MMP-1およびMMP-9濃度がそれぞれ73.8%および78.7%有意に減少することが分かりました。このことから、フィコシアニンはMMPの発現を抑制し、加齢によるシワの形成を抑制することが示唆されました。
3|フィコシアニンによる活性酸素生成抑制効果
活性酸素種の発生を検出するための蛍光プローブ ROS Detection Cell-Based Assay Kit (DCFDA) を用いて、ヒト表皮角化細胞における活性酸素生成量を解析し、蛍光顕微鏡による画像解析でフィコシアニンの抗酸化活性を評価しました。紫外線照射により、ヒト表皮角化細胞におけるDCFDAの蛍光強度は、対照群に比べ81.6%と有意に増加しました。一方、フィコシアニンを40μg/mLおよび80μg/mL付与した細胞では、活性酸素の生成量がそれぞれ51.2%と55.1%減少しました。したがって、フィコシアニンは紫外線照射による活性酸素の生成量を減少させ、細胞膜の脂質の酸化を抑制することが示唆されました。
考察|
フィコシアニンは紫外線から皮膚を保護し、皮膚の老化をもたらすMMP生成を阻害し、最終的にシワの形成を抑制することが分かりました。したがって、フィコシアニンは、光老化を防ぐための美容成分として高い可能性を持っていると考えられます。
まとめ
肌の老化の主要因として考えられるものが、紫外線ダメージの蓄積で起こる光老化です。今後、天然素材であるスピルリナ由来のフィコシアニンを用いた化粧品等の開発が期待されます。
出典:Jang, Young Ah, and Bo Ae Kim. “Protective effect of spirulina-derived C-phycocyanin against ultraviolet B-induced damage in HaCaT cells.” Medicina 57.3 (2021): 273.